震災以降の坂本の音楽表現の変化を描くため
5年にわたって取材を続けた
ドキュメンタリー作品。
津波に飲み込まれたピアノを鳴らし、
原発再稼働反対のデモに参加し、
福島原発のそばで防護服で佇み、
陸前高田の避難所で
寒さを気遣いながら
かつて話題になりすぎて
人前で演奏するのを本気で嫌がっていた
「戦メリ」を
真剣な面持ちで弾く坂本を見て
涙が止まらない。
坂本龍一は高校の頃からのわたしの先生で、
ドゥールズもガタリも柄谷行人も
南方熊楠も民俗学も
みんな坂本に教わった。
環境問題に興味を持ったきっかけも
そこから。
知的で、破滅的で、
情緒過多を嫌う感じが好きで、
熱心にメデイアをチェックしては
一生懸命後をついて歩いた。
この映画には、わたしの熱狂した
その後の彼のことが語られていて
あの「ラストエンペラー」の音楽が
一週間で作られたとか、
シェルタリングスカイのイントロを
30分で作り直したとかを聞くと
世界の第一線で活躍するって
なんて大変なんだろうと思う。
時が流れて2014年坂本は癌になり
仕事のペースも落ちた。
それでも地球や、生命を慈しむように
世界の各地で嬉しそうに
「音を採取する」姿を見ると
変わらぬ姿にドキドキする(^ ^)
南極で流れる水、
枯葉を踏みしめる音
そこに楽しそうに音楽をのせていく。
音楽は少しずつ変化して
自然を内包する。
津波ピアノの優しい音の狂い方とか
ちょっとした物音の
思いがけない響きとか。
タルコフスキーの
惑星ソラリスの映像が何度も出てきて
そこの雨の音が
すごくよかったり。
創造することの無邪気な喜びがそこにある。
世界を毎日、新しく発見していくように。
911があって、温暖化があって震災があって
福島があって、音楽がある。
この先の世界が
どうであろうと
わたしたちにできることは、
この生命の連なりを
ただ続けていくこと。
できればすこしずつ輝きを増し
感動しながら。
日常の先、今いる場所
毎日のさもない時間の堆積の中から
変化は起こっていく。
できればもうすこし、彼の音楽を聴いていたい。
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